知恵だより 005号
「道路」について

Sep. 17 1999

9時間歩き続けて

人が近づいても逃げない知床のしか

99年9月17日、気温:10度、天気:晴時々曇り、風:北西
出発地:知床峠北緯44度03分11秒 緯度:東経144度49分59秒
到着地:斜里郡斜里町日の出:北緯43度57分25秒 緯度:東経144度50分05秒、
歩いた距離:36Km

 今日は9時間歩き続けました。そして、「この道路は、なぜ作られたのだろう」と考えていました。自動車が入ってくる前の日本では、道は歩く人のためにあったと聞いて、その思いがより強くなりました。今は、歩くための場所を見つけることさえ、難しいのです。

 *道路の長所

 今朝出発式をした知床岬まで、ウトロから道路が通じていて良かったと思いました。もし道路がなかったら、見送りのためにわざわざ来てくれた人たちは、やぶの中を17キロも歩かなければならなかったでしょう。午前中いっぱいかけて、僕がふみしめた道路を通り、たくさんの人達が知床岬の素晴らしい自然を体験しに来ます。

 他の道路と同じように、この道路にも作られた意義があります。知床の美しさに近づきやすくしてくれ、地域の経済活動を可能にしてくれるのです。

 *道路の短所

 驚くほど美しい景色と自然に満ちた知床半島からの道路が与えるプラスの面は、それが及ぼす様々な悪影響とひきかえになっています。今日歩いた道路の脇にはシカがたくさんいました。シカは人間を恐れて、少しでも音を立てると、逃げていってしまうとみんなは思うでしょう。自動車の音でもしようものならシカは一目散に駆けていくと思い込んでいる人もいるでしょう。

 でも、今日見たシカは、全然知らん顔で、道端の草を食べていました。すぐそばをすごい勢いでバスが通っても、観光客が写真をとろうと近づいても平気で口をもぐもぐしていました。

 シカたちが自動車のすぐそばに現れることに気がつきました。自動車にも、観光客のくれる食べ物にも慣れっこになっているようでした。そういうシカがあまりにも多くて、一頭などは目で僕に餌をせがんでいるように思えました。

 知床ほど恵まれた自然の中でありながら、僕が子どもの頃に出会った、人間を恐れるびくびくしたシカの行動とは全く違っていたのです。まるで、道路がシカを人間化してしまったようにかんじました。

 濃い緑のにおいに潮の香りが混ざってくると海に近づいているのがわかります

 *歩くことができない道路

 知床峠からの道路はウトロに近づくにつれ交通量が増えていきました。路肩は僕の体やリュックサックの幅位しかなく、自動車の量は二倍くらいになります。ウトロに物資を運んだり、運び出したりするトラックが行き交い、レストランや土産物店の前には観光バスが止まっています。そういう道を僕は気をつけながら歩きました。道路のもつ良い面と悪い面の両方が、これからの旅にはついて回ることでしょう。

 自動車のために作られた道路は、歩行者の事を考えて作られてはいません。それだから、人が歩いていないのです。

 トンネルの中の騒音は耳をつんざき、排気ガスを吸うのはいい気持ちではありません。たまに歩道があるとほっとします。歩道のないところでは通り過ぎる自動車と僕の間に、ほんの数センチの間隔しかありません。歩行者のために作られたのではない道路はたくさんあります。では、なんのために作ったのでしょう。歩くことはそんなに時代遅れなことで、道路を作る人は歩行者のことなんか、考えなくていいのでしょうか?

 あるところから、別のところへ、早く移動するために人間はトンネルを掘り、海岸線や山はコンクリートで固める。歩きながら、僕は道路があることの価値を考えていました。 明日は朝8時出発です。
 グレッグ

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