知恵だより 052号

Nov. 3 1999

埋め立てられた湖

99年11月3日、気温:10度 天気:晴時々曇り 風向き:北西
出発地:琴丘町鹿渡(かど)北緯=40度02分21秒/東経140度05分37秒
到着地:船越駅前 北緯=39度54分16秒/東経139度59分55秒 
歩いた距離:25km

大潟村に入る西側の道路の並木が見事です。かつての湖底に立派に育ち、茂りました。

 今日は、かつて「八郎潟」と呼ばれた湖の底を歩いて渡りました。

 そこは22,024ヘクタールの広さがあり、日本で二番目に大きい湖だったところです。巨大干拓事業(水を干し上げて、土地をつくること)が行われ、現在は水田になっています。

 干拓地を囲むように作られた小さな水路(農業に使う淡水の用水路)を渡って湖の底だったところに進みました。南西の方向にずっと開けていて、 20キロくらい先までまっすぐに見わたせます。一番むこうは、ちょうど湖が男鹿半島の山々にぶつかっていた場所です。

 ここがかつては湖の底だったなんて、とても想像もできませんでした。道路には15メートルもあるような並木が続き、同じように木が植えられている用水路が干拓地のまん中を横切ってずっとのびています。そして、見渡すかぎりどこまでも田んぼがひろがっています。

 北海道をあちこち歩いてきた僕でも、こんなに広く開けたところは初めて見ました。もう肌寒く感じるうような季節なのに、ここでは、秋の日差しを受け沢山の野鳥が飛び交い、バッタやキリギリスが跳び回っているのを見てびっくりしました。もう収穫が済んでしまっているので、広い田んぼに、人を全然見かけませんでした。

 八郎潟は、以前は海水と淡水の入り交じった大きな潟(かた)でした。政府は、大規模な農場を作り出すためにおおがかりな実験を行いました。その地帯を干上がらせ、地形を変え、農地にしようとしたのです。1950年代の食料不足がその背景にありました。広大な農地による近代的な農業経営で食料不足を解決できると考えたのです。

 八郎潟は、海との間をせき止めてから、水をくみ出して、底の土を乾燥するという手順で干拓が進められました。新しい干拓地の周囲に堤防が設けられました。海水が逆流して潟に流れ込むのを防ぎ、同時に新しくできた土地に農業用の真水を十分に行き渡らせるための水路を作りました。

 大規模農業は1970年代の半ばまさにここ八郎潟から始まったのです。この事業によって、食料生産用に広大な土地が新しく作られたのは確かです。しかし、この干拓事業が本当に成功だったかどうか、まだまだ議論の余地があるようです。

 皮肉なことに、干拓事業が完了した1970年代半ばには、食料不足は解消し、新たな問題が持ち上がりました。日本人が食べるよりもたくさんの米が生産されるような時代になっていたのです。これに対して政府が打ち出したのは、米を作る田の面積を減らすという方針でした。自分たちの田んぼに稲がずっと向こうまで広がる夢を見ていた大潟村の人たちに、強いショックを与えました。農家の人たちが沢山のお金を出して土地を手に入れたとたん、政府は米を生産するための田んぼの面積を減らすよう農家に求めたのです。

川底だったところに、田んぼがずーっと広がっています。その向こうに美しい山並みが見えます=大潟村で

 大潟村の例は、自然を自分たちの必要に合わせて変えるという試みでした。話をした何人もの土地の人たちは「成功といえるかどうかは疑問だ」と口をそろえていました。以前林野庁の職員だったという人は「潟は干上がって魚も貝もいなくなり、ボートを浮かべて楽しむこともできなくなった。潟という大切な自然が消えてしまった」と語っていました。また、米を作っているという農家のひとが「この辺では米が取れ過ぎるので、競争が激しくなって売るのに苦労している」と話してくれました。以前は漁業をしていたという人も「漁師たちはみんな、潟で漁業ができる権利を売ってしまった。最後まで売らなかった人たちは、残った用水路にいる魚が減ってしまったんで、えらく困っているようだ」といいます。

 かつて広大な潟の底であったところを歩いて目にした光景は、やはり奇妙でした。

 残念ながら、この干拓事業から得るものがあったという人にはひとりも出会いませんでした。もし会う機会があったら報告したいと思います。

 皆さんの意見を是非聞かせてください。あるいは、大潟村のことで他に知っていることがあったら、是非知らせてください。ワールドスクールネットワークのみんなで考えたいと思います。

 グレッグ

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