知恵だより 058号

Nov. 9 1999

五百年の歴史を持つ酒

99年11月9日 気温:8度 天気:曇り時々晴 風向き:西
現在地:由利郡仁賀保町=北緯39度18分21秒/東経139度58分05秒
歩いた距離:0km

蔵の中での斎藤さんとグレッグ=由利郡仁賀保町で

 日本の酒造りの長い歴史と、そこに秘められた数々の知恵、そして酒造りがいかに豊かな自然環境に依存しているかということを、創業五百年以上という酒蔵(さかぐら)を訪問してはっきり分かりました。

 「日本は、発酵の文化の上にあるのです」

 蔵をみせてもらった「飛良泉本舗(ひらいずみほんぽ)」のご主人の斎藤さんはいいました。「ヨーロッパにはムギを使った麦芽の文化があります。日本の酒造りの歴史は約 2000年と言われています。また酒を殺菌したり、保存したりする技術にも同じくらい長い歴史があるのです。今、日本の文化はいろいろと変に動いているけれども、私は日本の長い歴史を残していきたいのです」と斎藤さんはいいます。階段の上から見下ろし、歴史がいっぱいつまった酒蔵で何を見つけられるだろうと期待しました。

 この蔵は、明治元年(1868年)に建てられました。入り口もとても古そうな感じがします。昔風の引き戸は僕の胸までくらいしか高さがありません。使っている木材も階段の暗がりでは茶色というより真っ黒のようにみえます。中に入ると、アルコールのにおいがつんと鼻をつきます。

 蔵の中を歩きながら、斎藤さんは山廃仕込みという独特の方法について教えてくれました。「うちでは蔵の中にいる乳酸菌が自然に酒母(しゅぼ)を作る独特の製法をとっています。酒母は酒作りには欠かせないものです。わざと乳酸菌を加えると早くできますが、うちのような自然な方法だと、うんと時間がかかります。それでも、長い歴史を持った独特のやり方で造っています」

 他にも蔵が利用している自然の特徴がいくつかあります。「低温に保つことで、菌が増えるのにちょうどいい環境を作ってやります。この建物の分厚い壁や天井がそれを可能にしてくれるのです。外の温度では、ゆっくりとした米の発酵をみちびくことができません。周りを囲む木々が、強い日光から建物を守ってくれるんですよ」と斉藤さんはいいます。幹の周囲が僕の両腕の何倍もあるようなケヤキの木が一本、屋根のはるか上に枝を広げています。その木の樹齢は500歳をこえているそうです。

有機栽培の無農薬米で作った飛良泉本舗(ひらいずみほんぽ)の酒=由利郡仁賀保町で

 工夫をこらした醸造方法と、建物の構造に加えて、周りの豊かな自然も酒造りを支えています。「うちで使っている水は鳥海山一帯からくるんです」と斎藤さんはいいました。鳥海山の深い森から流れ出す水が酒造りに使われる米を育てていたのです。そしてなにより、酒造りの一番大切な原料は水です。「今使っている水は多分二、三十年かかって鳥海山にろ過され、うちの井戸にやってくるんです」というので、ちょっとその水を飲ませてもらいましたが思わず「おいしい」といってしまいました。すると、斎藤さんは「もちろんおいしいでしょう。だからこの水でお酒を造っているんですよ」といいました。水に含まれるミネラルは酒をおいしくする役目もし、菌にとって良い環境を作りもします。この水と比べると水道の水は殺菌されすぎているのです。みんなにもこの水を飲ましてあげたいなあと思いました。

 五百年の酒造りの伝統をしっかりと守ろうとしている斎藤さんの態度にうたれました。そして、伝統の製法を今も可能にしている自然環境の大切さも強く感じました。

 グレッグ

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