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| Nov. 12 1999 |
森を守るいましめ
海向寺の前に立つ伊藤さん一家=酒田市で 99年11月12日 気温:8度 天気:曇りのち雨 風向き:南西
出発地:酒田市上本町=北緯38度54分43秒/東経139度50分50秒
到着地:鶴岡市若葉町=北緯38度44分14秒/東経139度49分18秒
歩いた距離:26km昨日の夜は真言宗の海向寺というお寺に泊めてもらいました。そこで古代中国から伝わったという森を守る戒めについて教わりました。
家族の住まいから障子でへだてられた広い畳の部屋に通されました。僕のうしろには小さな仏壇があります。伊藤隆文(りゅうぶん)さんと奥さんはこの地域に昔から伝わる、森を守る伝統について熱心に話してくれました。
「この寺では『さんりんぼう』を守っています。それは先祖たちが森を守ってきた賢い方法なのです。さんりんぼうは、山と森が逃げていくという意味の『山林亡』と書きます。「ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ、タツ、ヘビ、ウマ、ヒツジ、サル、ニワトリ、イヌ、イノシシで一回りする12支は昔、中国から伝わりました」。山の木を切りすぎを防ぐために、 12支のうちトラ、ウマ、イノシシという山林亡の年に山の木を切ると、山も森林もなくなってしまう、おまけに水害も起きるやすくなると教えたのです。つまり 12年のうち3年は山の木を切ってはいけないというこの伝統は、先祖の小さな知恵といえるでしょう」と伊藤さんはいいました。
一家そろってにぎやかな夕食=酒田市の海向寺で 「もうひとつのさんりんぼうもあります。こちらは漢字で『三隣亡』と書きます。元は山林亡と同じです。でもこちらの言い伝えは、さんりんぼうの年に家を建てると隣の人が亡くなるというのです」。伊藤さんの奥さんによると、三隣亡の方が村のみんなに良く知られているということです。「もし自分がさんりんぼうの年に家を建て、お隣の人に不幸があったら、それは自分のせいだということになるのです。だからさんりんぼうの年には家を建てないようになったのです」昔は山や森林が亡くなるといっただけで、人々はおそれて木を切るのをやめたのでしたが、現代では、他人に危害を与えるというおそれが同じ役目をしているわけです。
田んぼで餌を食べるハクチョウ=酒田市下中村で それが、昔々の話ではないということに気がつきました。伊藤さんのお寺には今でもいつ家を建てたらいいのかと相談に来る人がいるのです。「昔はこの地域の人なら、どの年がさんりんぼうか誰でも知っていたので、わざわざ寺に聞きに来る人はいませんでした。さんりんぼうは、仏教の教えというよりは中国の考え方を日本流に変化させたものなんですが、今の若い人には分かりません。私に相談に来るんですよ。今でも私はさんりんぼうの年に家を建ててはいけないと教えています」。
国というものや法律ができる前、私たちの先祖も含め世界中のさまざまな文化に生きた昔の人たちは、社会や、環境を維持していくためのいましめをそれぞれが作ったのです。そういった伝統や、いましめが今も生きていることに感心しました。伊藤さんとの会話から日々の生活にかくれたこのようないましめがほかにもあるのだろうかと、考えました。
別の場所へ餌を探して、東へ飛び立ったハクチョウの群れ=酒田市下中村で みなさんはどうですか、なにか守っているいましめはありますか?
酒田市を今朝出ていくとき、僕の後ろ姿を鳥海山が見送ってくれているような気がしました。最上川にかかった橋をわたっている時、数えきれないほどたくさんのハクチョウがいました。日没から夜明けまでハクチョウは最上川で過ごし、日中になると、稲刈りがおわった田んぼへ行って餌を探すのだそうです。
南に向かって歩いていると、20羽以上の群れをいくつも見ました。田んぼのあぜ道にさしかかると、羽根の生えた友だちにやっと追いつきました。ハクチョウは田んぼの土にくちばしを入れて何かを探していました。友達になったように感じたハクチョウを残し、南の空に重く垂れこめる雨雲の方へ僕は進むことにします。
グレッグ
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