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| Nov. 16 1999 |
キャッチ・アンド・リリース
水に住む昆虫を知り尽くしている者だけが上手なフライ・フィッシングができるよう になる=西川町大井沢で 99年11月16日 気温:1度 天気:雨のち雪 風向き:西
出発地:西山村郡西川町志津=北緯38度29分31秒/東経140度00分04秒
到着地:西山村郡西川町大井沢=北緯38度24分14秒/東経139度59分35秒
歩いた距離:12km今朝テントをたたんだとき、本州ではじめての雪が降り始めました。温度計は1度です。冬の湿った風が強く吹きすさび、僕は大井沢を目指して月山のふもとに向かうのに、体を斜めにして進まなくてはなりませんでした。
山形県の中央、深い山々の奥に寒河江川(さがえがわ)が流れています。もともとブナ林には強い再生力があるにもかかわらず、砂防ダム建設がずっと続いたために、以前は川や小川を自由に泳いでいた自生の魚も種類が大幅に減ってしまいました。僕は大井沢で、志田忠昭さんという人に出会いました。志田さんは、自分のふるさとの川で「キャッチ・アンド・リリース」という新しいやり方を始めるのに努力した人です。
「キャッチ・アンド・リリース」と聞くと、僕はふるさとのアメリカを思い出します。これは30年ほど前、アメリカのイエローストーン国立公園を流れる川の一部で始まったものです。「キャッチ・アンド・リリース区域」と指定された場所で釣り上げられた魚は、そのまま川に戻されます。魚を減らさないためと、川の環境を変えずに保つためです。このやり方が日本に持ち込まれたのです。
志田さんの手作りの擬似餌は、川の特定の地域に似せて作ってあり、場所によって使 い分ける=西川町大井沢で 「数年前まで、寒河江川で魚の姿を見ることはほとんどなかったんですよ」川からほんの数メートルしか離れていない自分の民宿の薄暗い茶の間で、志田さんは言いました。「砂防ダムのおかげで魚の放卵場所はぜんぶせき止められ、水温は上がり、水中の酸素は減り、川底は水生昆虫が生きにくい状態になってしまいました」。志田さんによると、「砂利をこの川から取ることは20年前に止めました。でもこの川に魚を呼び戻すために何かしよう、と僕が呼びかけたのは1995年になってからだった」といいます。
志田さんの努力で始まったのが、現在寒河江川の流域10キロほどで行われている「キャッチ・アンド・リリース」です。 「僕は子どものころ、小さな魚は釣っても川に返していたので、この考えに抵抗はありませんでした。昔は、ここで釣りをするのはこの地域の人だけで、次の年にも魚がじゅうぶん残るように、釣る量を加減していたものです。ところが他の地域から人々がきて釣りをするようになって、魚は急に減ってしまいました。でも、もし魚がこの川から持ち去られなければ、問題は解決できるわけです」
「キャッチ・アンド・リリースは1997年から3年続いています。魚は私たちの川に戻ってきてくれました。でも、もし今やめたら、魚は1週間でいなくなってしまいます。 現在この川は全国でも数少ないイワナが見られる川です。おかげで、釣り人の数も急に増えましたが、みんな許可証を持ち、フライ・フィッシングをしてくれるので助かっています」
フライ・フィッシングの何がいいのか、たずねてみました。「この釣り方をする人たちは、食べる魚を釣るためではなく、釣り自体を楽しむために来るんです。フライ(疑似餌)を使って釣りをするには、どんなフライなら魚がよく食いつくか分かっていなくてはならないし、そのためには昆虫のことを知っていなくてはなりません。フライ・フィッシングにくわしい人は、昆虫はきれいな水の中に多いこと、きれいな水は豊かな森が作り出すこと、を知っていますよ」そう言いながら志田さんは、昆虫とそれに似せて自分で作ったフライを見せてくれました。
本州に入って初めて望む冠雪した尾根と僕のテント= 西川町志津で 志田さん自身、自然にくわしいすばらしい人です。「僕はただ、ここの自然や文化を、何世紀も前と同じように残したいだけでやっているんです。もし川や山や森や文化を付加価値として残しておけたら、お客さんたちがここにきて楽しんでくれるでしょう。キャッチ・アンド・リリースがその正解かどうかは分かりませんか、試してみるだけの価値はありそうです」
アメリカで始まった運動が日本の自然の役に立っているのを知ってとてもうれしく思いました。志田さんはを民宿の近くの川に住む大きなイワナを見に連れていってくれるそうです。
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