知恵だより 066号

Nov. 17 1999

「狩人」

狩人の暮らしについて話す志田さん=西川町大井沢朝日山の家で

99年11月7日 気温:0度  天気:雪   風向き:西
現在地:西川町大井沢=北緯38度24分14秒/東経139度59分35秒
歩いた距離:0km

 志田忠儀さんは、真正面から自然と向かい合っている人です。大井沢の山の中で長く暮らしてきたおかげで、彼の自然に関する知識や自然との関わり方は、どんなな学者や自然愛好家よりも優れたものになりました。志田さんは、日本古来からの狩人です。今日一日、志田さんがずっと暮らしてきた大井沢ですごしました。

 志田さんが「朝日山の家」に着いたころには、雪はもう6センチから8センチも積もっていました。この小さな民宿は、今は志田さんの息子の忠昭さん(知恵だより065を見てください)が経営しています。志田さんは、谷の向こうの山に湿った新雪が積もっていくのを見て目を輝かせ、ほほえみました。びっくりするほどほっそりしていますが、83歳にしてはとても頑丈な体つきです。「雪が降り出すと、狩りの季節が始まるんです」と、志田さんはまるで待ちかねていたように言いました。子どものころから、お父さんについて山を歩き、狩りをしたそうです。狩りは77歳まで続けていました。

 山形の山の生活は楽ではありません。冬になると雪のために、山の村は孤立してしまいます。山でとれるものは、栄養のためにも、安定した収入のためにも、とても大切です。志田さんは多くの時間を山で過ごしてきました。1年を通じて彼の生活がどんなものなのか、すこし説明しておいたほうがいいでしょう。

わなで動物をどう捕まえたか説明する志田さん=西川町大井沢大井沢自然博物館で

 春、4月のなかばになると、志田さんは冬眠からさめるクマを狩ります。5月にはワラビを集め、6月になると山菜をとり、川でイワナを釣ります。夏は一番ゆっくりできる季節で、ほとんど山の奥ですごしたそうです。志田さんは何年にもわたって朝日連峰国立公園の管理人をしていたそうです。この仕事をするのは、ふつうは大学を出た専門家だけですが、志田さんの自然に関する知識がとても豊かなので、大学を出ているかどうかは問題になりませんでした。さて、秋にはキノコ狩りです。いよいよ冬になると、狩りの季節が戻ってきます。ノウサギ(これはたん白質をとるのに特に貴重でした)、イタチ、テン、アナグマ、ミンクなどを狩ったそうです。

 ご自分のすみかである自然界を僕にすこし味わせようと、志田さんは大井沢自然博物館を案内してくれました。ここには、土地の小学校の生徒たちに見せようと、野生動物の標本を集めて始めた施設です。120種もが並べられてありましたが、そのうちの80パーセントは志田さんがとったものでした。どの獲物にも、どの種にも物語があって、大井沢の自然を生き生きしたものに感じさせてくれます。

地域の小学校で子どもたちの質問に答える志田さん。狩人の知恵を未来へ伝えます=西川町大井沢大井沢小中学校で

 「アナグマは低いところを歩くから、わなを低くしかけないと、入ってくれないんですよ」志田さんは手振りをまじえて教えてくれました。さらに手のひらを高くあげて、「イタチには高くね」。つぎにホンドキツネの話になりましたが、金属のにおいにとても敏感なので、わなには近づいてくれないそうです。「ヤマネはいま天然記念物になっていますが、体が冷えると冬眠に入るんです。もし高い木の上にいる時寒くなって体がすごく冷えると、すとんと雪のなかに落ちて、そのまま冬眠してしまうんですよ。温度が8度以上になるとまた目がさめて、ふつうの生活に戻ります。捕まえてポケットのなかに入れておくと、目が覚めてモゾモゾするのがわかります」。120もの見本をとらえるのに、そしてそれぞれの物語を話してくれるのに、いったい志田さんはどのくらいの時間と、集中力と、好奇心と自然に対する理解が必要だったか、僕は想像してみました。

 この博物館にとどまらず、志田さんは、1951年から大井沢の子どもたちに、自分の体験談を聞かせています。すごいことだと思います。

 志田さんは、今日の午後も大井沢小学校の生徒たちと会いました。クラスの子どもたちは寒河江川に流れこむ4つの流れにそって沢のぼりをしたあと、「志田先生」に質問をしていました。川の名前の由来とか、源流の水源について知りたかったようです。ほかにも、なぜ川にそってダムがあるのか、それぞれの川で一番多い昆虫は何か、なぜ川によってちがう昆虫がいるのか、などの質問が出ていました。

もう10センチも雪が積もっています=西川町大井沢朝日山の家で

 どの質問にも志田さんは、まるで自分の裏庭の話でもするように、すらすらと答えていました。地図も見ないで、それぞれの流れがどこから始まるのか、そこの土はどんな成分からできているのか、いつ木が切られたのか、いつダムができたのか、ダムのせいで水質や昆虫や川の魚にどんな影響がでたのか、などなどを話してくれました。生徒たちはみな、一所懸命に聞き入り、志田さんの答えに満足しているのが表情からも分かりました。僕は、志田さんが自分の経験したことを大井沢の子どもたちに伝えているのを、感動して見つめていました。

グレッグ

 志田さんが自分の歩き回る森を守るようになったいきさつや、自然と生きるための賢い知恵については明日お知らせします。楽しみにしていてください。

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