知恵だより 082号

Dec. 2 1999

ソバと町役場

ソバの種をのす斎藤さん。薄く均一に伸ばすには技が必要です=小国町金目ソバ の館で

99年12月3日 気温:0度 天気:雪 風向き:西
現在地:西置賜郡小国町=北緯38度03分42秒/東経139度45分33秒
歩いた距離:0km

 自分のおじいさんやおばあさんがどうやって食料を確保し、料理したか、みなさんは知っていますか。知っている人はきっと少ないのではないかと僕は思います。一緒に一日過ごした小国町役場の阿部さんから、小国町の食文化を伝えるということに対する考えや展望を聞きました。

 「金目ソバの館」へ続く道の両側には、すでに雪が30センチほど積もっていました。小国の山の上にある白く雪をかぶった田んぼや民家の間を道は左右にカーブしています。知らない人には、こんな山の奥にソバの店があるとはちょっと信じられないかもしれません。

 阿部さんは車を運転しながら、「金目は16世帯しかない小さな村です。昔は気温の低い山間部では、米が育ちにくかったので、ソバを植える人が多かったんです。ソバはここの気候にもむいているし、手もかからないしね。コメで冷害にあうと村は食べて行けなかったのです。寒冷地にむいた新種の米がでてくるまで、各家庭ではソバ作りの技術が代々伝えられ発達してきました。必要がなくなったので、ソバ作りの技術は忘れられてきたのです」と話してくれました。

ソバを切る斎藤さん=小国町金目ソバの館で

 ソバ作りの技術が小国町で再び注目されるようになったのは、この25年ほどのことです。「金目ソバの館」は町と地元の人たちが協力して金目のソバ作りの伝統を伝える試みなのです。

 「町が資金を提供し、地元の人たちは一日に数時間そこで働き、同時に農業をしたり、山菜を採りにいったりする余裕も提供します。さらに、ソバを食べたりソバ作りを体験したり、ソバ作りの伝統が伝わるようにする場を提供しているのです」と阿部さんはいいます。

ゆで立てのソバ。うーんおいしそう=小国町金目ソバの館で

 雪をかぶった森に囲まれ道から少し奥まったところに金目ソバの館はあります。ソバの館に入ると元気のいい女性たちが3人迎えてくれました。そのひとり斎藤さんはすぐの僕の目の前で大きな木製のはちにソバ粉をいれてソバ作りを始めました。ソバ粉に水を入れながら「湯を初めに入れるのが、コツなんです」といいます。そして、ソバの種を丸くまとめながら「水を初めから使うとうまくまとまらないんです」と金目ソバの作り方の秘訣を教えてくれます。種が冷え切ってしまう前にきれいにまとめると斎藤さんは、それをのし棒で薄くのにました。それから、折りたたんでソバの一本一本が同じ幅になるように、上手に細く切っていきます。一連の動作がとてもスムースで優雅なので、ソバを作るのはとても簡単なことのように見えます。ソバがゆで上がったら、ざるの中に氷と一緒にあげていよいよ試食です。香り高いゆで立てのソバをすすり上げながらその簡潔な中に長い伝統の味を感じました。

地元の食品を売る小国町の店にたつ阿部さん

 同じ家族ではないのですが、全員斎藤さんという名前の女性3人は世代もそれぞれです。一緒にソバを食べながら、ソバ作りの経験は「私は10年」、「5年です」、「私はまだ3年」と話してくれました。年上の二人の斎藤さんは、これまで話をした他の年配の人たちが食べ物について語るときと同じように子ども時代をふり返りました。「昔はね自然のものをそのまま食べたものです。それは大変でした」二人とも決して子どもの頃のつらさを懐かしんではいませんが、ひとつだけ懐かしいのは山でとれるスモモも味だそうです。このスモモにかなうものはおそらくないでしょうが、3人の女性たちはソバの館で働いた収入を手にしただけでなく、子どもの頃に親しんだ食べ物を採りにいくだけの時間もあるのです。

 阿部さんは「小国町のソバという食文化はここまで生き延びました。でも、誰も何もしなかったら、どうしてここでソバの文化が生まれ育ったかや、その香り、作り方などを忘れてしまったかもしれません。金目ソバの館があり、町役場の努力があってこそ古い伝統を受ついでいく新しいシステムを作ろうとしているんです」と話してくれました。

どっちが僕の切ったソバかわかるかな=小国町金目ソバの館で

 金目ソバの館は食文化の伝統を伝えようという地域の努力の新しい例のひとつです。それでも、ソバ、山菜、キノコ、漬物など地域の食文化がすべて伝えられているわけではありません。阿部さんは地元のスーパーに僕を連れていってくれました。店には、冷凍の魚、甘いもののコーナー、新鮮な魚のコーナー、最後がとても小さな地元の食品のコーナーでした。こんな売り場では地元の味を広めていく助けにはならないでしょう。

 小国の未来の食文化が今後どうなるかはまだまだ不透明ですが、北部小学校の取り組み(知恵だより# 079を見てください)や小国町役場の努力が食文化の歴史の再評価や次世代への伝達の可能性に光を当て始めていると思います。

グレッグ

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