知恵だより 099号

Dec. 20 1999

猿ヶ京温泉

 田村さんと(中央)田村さんのお母さん(左)とおばあちゃん(右)。経営している民宿で温泉を守って来た三世代です=群馬県新治村猿ヶ京の民宿「はしば」で

99年12月20日 気温:−5度 天気:晴時々曇 風向き:南西
現在地 : 群馬県利根郡新治村猿ヶ京温泉=北緯36度44分07秒/東経138度53分27秒
歩いた距離:0km

 日本はいくつかの火山帯の上にあって、昔からその地理的な特徴をうまく利用してきました。日本人が温泉を、いつ頃から使い始めたのかはわかりませんが、疲れをいやすために、同時に地域のきずな作りのために、ずっと昔から利用してきました。今日、いくつかの温泉を訪ねて、話を聞きました。

 地元の食堂は、いろいろな出会いを作ってくれます。きのう夕食の時に出会った男の人が、地元で民宿をしている彼の仲間に会って、猿ヶ京温泉の歴史について話を聞くようにすすめてくれました。

 石油ストーブのそばにすわって、田村さんと89歳になるおばあさんが猿ヶ京の歴史を話してくれました。

 「昔は、このあたりは農業が主で、米や野菜を作りながら、絹糸をとるカイコを飼っていました。私たちの若いころは農作業が忙しくて、温泉に入るなんてめったになかったですよ」と、田村さんのおばあさんは、腰かけに背をまるめて座りながらいいました。「温泉が商売になりようになったのは、ダムができて、新潟に通じるトンネル(三国トンネル)ができた1960年代になってからです」

 田村さんは、温泉のいくつかの効能について話してくれました。60年代以後は、たくさんの人が温泉の効能をもとめて来るようになりました。ナトリウムやカルシウムイオンの濃度が高く、動脈硬化症、切り傷、やけど、慢性皮膚疾患にとてもよく効くそうです。温泉は、一般的に、筋肉痛、腰痛、ストレス、気分転換にとてもいいものです。ここの温泉に来る湯治客のほとんどが年配の人たちで、温泉の効果が充分でるように、一週間くらい泊まっていくそうです。若い旅行者やスキーヤーたちはここを通りすぎて、近くにある大きなリゾートホテルに行くそうです。

湯気で分かりにくいですが、田村さんの温泉でお湯に入ってくつろいでいる僕=民宿はしばで

 温泉については充分学習したと思ったら、田村さんは、猿ヶ京でも古い温泉のひとつ、猿ヶ京ホテルに行くようにすすめてくれました。そこでは民話の会が開かれていました。

 お客さんたちがいろりのまわりに集まっていました。小さな炭火の上にはやかんがかけられていて、三世代も前から受けつがれてきた着物姿の持谷さんが、背筋を伸ばして座りました。持谷さんが民話をかたり始めると、変化に富んだ口調や猿ヶ京の名前の面白い由来の話に、みんなはどんどんと引き込まれていきました。

 温泉が歴史のうえで、また社会的にどんなに大切だったか、持谷さんが教えてくれました。

 「私たちの温泉は民話の温泉と呼ばれています。それは温泉が、昔からゆっくり休んだり、互いにうちとけあったり、村の伝統的な行事などのために集まったりした場所だったからです。男の人たちが山から下りて来た時や、女の人たちが味噌作り大仕事をやり終えた時など、みんなが温泉に集まってくつろぎました。民話や村の歴史が世代を通して語りつがれてきたのはそういう時だったのです。

 今と同じように、昔の人もいろいろな情報を求めていました。その時代の情報とは、村の中のうわさ話だったり、どんな人が村を通って行ったかとか、古い民話なんかでした。猿ヶ京は有名な三国街道沿いにあったので、いろいろな人がここを通って行きました。だれか話が出来る人が通りかかると、村中の人たちが温泉に集まって来て、その話を熱心にきいたのです」

 持谷さんは、情報を伝達するときの対話の大切さについて話しました。現在のメディアとは違い、口で物語をしていた時代には、かたり手たちは、聞いている人がわからないがあると言うと、そこで話をやめて説明したものでした。猿ヶ京温泉は、みんなが話し合い、昔の出来事を共有する場所だったので、「民話の温泉」という名で呼ばれるようになったのです。

 話のあと温泉に入ればとすすめられ、すぐに入ってみました。暖かくミネラル分のゆたかな露天風呂の中から、満月に近い月を見上げました。夕べの静けさは、僕の気持ちを和らげてくれました。1400キロ以上歩いて来た僕の体も喜んでいました。猿ヶ京の話が聞けたことを、とてもうれしく思いました。

 グレッグ

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